Chisachi Blog

カイエ、もしくはスクラップ・ブック

劇団むさび第111回公演☆ダイナミックメトロアワー☆「くつした狩り」

武蔵野美術大学鷹の台ホールB(課外センター)2階特設会場 前売り券600円 80分

劇団むさび3回目

第109回春公演「ぱおぱおスター」、第110回芸祭公演「DEKKA GIFT」に続いて三回目の観劇となる劇団むさびの公演。詳しくは過去の記事を参照して貰いたいが、制作物の高い完成度や、シュールでありながらもポイントを抑えた劇空間作りが特色と言えよう。毎回、脚本・演出、Castが入れ替わりながらも、劇団むさびらしい流れはしっかりと継承している。学生劇団においては、影響力の強い先輩の劣化コピーを増産してしまうような現象が度々見受けられるが、劇団むさびに関しては今のところ、そういったところは気にならない。(まだ3回目だからだろうか。)劇団むさびらしさを踏まえつつ、また違った文脈のお芝居を取り入れる余地も十分あるだろう。

ダイナミックメトロアワー

さて、今回の会場は「ぱおぱおスター」と同じくあの非常に狭い第六会議室である。やはり天井が低いことは致命的であり、照明がどうしても限定されてしまう。こればっかりは今回も気になった。舞台美術は「ぱおぱおスター」とも「DEKKA GIFT」とも違い、昔のTVshowのスタジオのような作りだ。電球が沢山使われていて目を引くが、舞台照明として機能するようなものではない。(つまり、役者の顔を照らしたり、敢えて影を落としたりするような用途ではない。)奥には、仮面ライダーのショッカー本部よろしく、キャプテンダイナミックのご尊顔が配置されている。実際ダイナミックメトロ社は単なるぬいぐるみ工場なのだが、TVセットの持つ虚構性や、何か秘密結社めいた様相が取り入れられた舞台になっている。

学生演劇と備忘録

慣例に従ってここでパンフレットから、あらすじと登場人物紹介を引用しておこう。すっかりお決まりの流れになってしまったが、これは学生劇団の公演の感想を書くときに便利だからである。すなわち、「脚本・演出が毎回変わる」という事実と「役者が本業でない人達の名前を出して語るよりも、役名の方がよく通じる」という実感から要請されるもので、それ以上の意味はあまりない。僕は以前、役者のポートフォリオについて考察したことがあるが、舞台芸術系SNSでは何か物足りないと考えているので、下らないと思うかも知れないが、一つのエントリーに備忘録の意味も含めてこうして情報を載せている。

あらすじ
探していたくつしたが見つかりません。片方ないんです。
片付けたのは、誰ですか?なんで、この狭い家で見つからないのよ!
と母さんは言うと思います。そうなんです。
我が家は八畳人待に8人暮らしです。狭いんです。
タンスで三畳、おしいれで二畳、残りの三畳で台所と8人の寝床。とても狭いんです。
だけど、片方くつしたが見つからないんです。隠したのは、誰ですか?

(隠したのは、母さんです。)

あらすじを読む限り、「ぱおぱおスター」に通じるテーマ性を感じる。つまり、思春期の女の子特有の喪失感だ。しかし、「靴下狩り」の主人公、大城ヘレンの喪失感は身体の欠片を探し求めるという、ある種のエロティシズムへ跳躍し得るまでのものではない。「ぱおぱおスター」のみなこや円よりも、「くつした狩り」の大城ヘレンの周りを包む状況はずっと切迫している。とても貧乏で、部屋が狭い。それなのに靴下が見つからない、しかも片方だけ。大城ヘレンの悩みはずっと現実的で、身近で、それ故あまり詩的に語ることさえ出来ない。大城ヘレンはとりあえず今いる状況から抜け出したいが、そのための具体的な方法も思いつかない。歌手になるっていう夢のどこかに、具体性があるといえるだろうか。ちなみに、本気で靴下を探しに冒険するロード・ムービーにもならない。

「くつした狩り」の宣伝美術や映像には古い少女漫画風なイメージが用いられているし、登場人物の名前もおおよそ漫画のキャラクターみたいだ。こういう役作りが出来るのも美大生ならではかも知れない。大城ヘレンは歌手を夢見る女の子。でも二階堂レイ君に少し恋している。本当にそうなのかも知れないが、どこか、そう思い込みたいだけなのではないかという疑いを抱かせる。気持ちの真偽なんて測れるものじゃないが、敢えて言葉にするならば、きっとそれは願望の浅はかさに対する違和感なのだろう。

大城ヘレン 主人公。歌手になることを夢見る17歳。悩みは家がとっても狭いこと。

工場の愉快な仲間たち

キャプテンダイナミック:我らがキャプテンダイナミック。
人事課:ダイナミックメトロ社の人事課。
御手洗ライム:ダイナミックメトロ社のバイトのお局。
前神多美子:ダイナミックメトロ社の新入社員。
ルマンド=アランドロン:赤い屋根の小さなアパートに住んでいる。

「くつした狩り」では上記の役柄以外にも、大城ヘレンの母親や兄弟、医者や芸能界関係の人などが登場する。それらエキストラの役はダイナミックメトロ社の役者が場面ごとにそれぞれの役を演じることになる。一人二役には収まらず、三役、四役程受け持つ人もいた気がする。「ぱおぱおスター」や「DEKKA GIFT」でもエキストラ兼ね役はあったが、今回はかなり忙しく入れ替わっていた。役者の力量が試される部分も大きかったが、適度な演出で場面設定を見失うことはなかった。上手くやっていたと思う。

音響とキャプテンダイナミック

所謂BGMではなく、SEで笑いを誘う場面が多く、印象に残った。僕が携わってきたお芝居では、FamilyMart入店のジングルや、打撃音みたいなものを流すのは邪道、という風潮が強かったのだけれど、劇団むさびのような虚構性や喜劇性の上で使うのはそこまで悪くないと思った。

前述したように、キャプテンダイナミックは舞台装置に埋め込まれている。キャプテンダイナミックが喋るときには彼の口の部分が動く仕組みになっていて、遊園地のアトラクションのような作りだ。キャプテンダイナミックはダイナミックメトロ社の商品であると同時に、ダイナミックメトロ社を常に見渡している存在になっている。

8人家族のヘレン

オープニングで、ヘレンは3人家族から、急に8人家族になる。ヘレンのモノローグで全て片付けられてしまうのでどういうことなのか理解不能だが、とにかくヘレンには一日にして五人の弟や妹が出来、ただでさえ狭い家が殊更窮屈になった。劇中に出てきていないヘレンの父親にあたる人物の隠し子なのか、単に五つ子なのか、はたまた何かのメタファーなのか。尋常じゃない家族の増え方をする、という点は第110回公演Dekka Giftのタロウにも通じる。タロウは、生まれて3日で小学生程度に成長してしまったという設定のキャラクターだ。つい数日前と家庭環境が一変し、居心地が悪くなる。今まで居場所であった所がそうでなくなってしまうという感覚が、シュウゾウ然り、ヘレン然り、彼等を物語の主人公足らしめている。

タロウがシュウゾウの切り開いてきた運命の結晶として描かれているのに対し、ヘレンの弟妹は、ヘレンの生活状況を強制的に変えてしまう一要因として描かれている。家庭内に起こった変化だが、そこにはヘレンが関わろうとした意志も存在せず、母親から「明日から家族が増えるから」と、一方的に宣告されたことに過ぎない。家族が増えた理由について追求するわけでもなく、弟や妹とどう接していいか悩むわけでもなく、ただヘレンは家が狭くなったことを嘆く。

その一方で、ヘレンは歌手への夢や、二階堂レイ君への憧れを口にする。この二階堂レイ君というのも名前だけ何度か出てくるが、結局誰なのかよくわらなかった。ヘレンが「人事課やルマンドがもしかして二階堂君なのか」と疑う場面があり、何らかの伏線なのかと思いきや、特にそういう訳でもなかったようだ。ヘレンが、歌手になった自分をイメージする上で出てきてしまった妄想上の産物かも知れない。

カルトな工場

歌手のオーディションも中々結果を出せず、狭い家にも居場所のない大城ヘレンは、家族に黙ってアルバイトを始める。キャプテンダイナミックというキャラクターのぬいぐるみを作っているダイナミックメトロ社の工場で、大城ヘレンは検品の仕事を任されることになる。キャプテンダイナミックは「女子高生に大人気」になることを目標にしているが、知名度はゼロに等しいのが実情のようだ。ヘレンの仕事もルーチンワークであり、傍目には不毛なものに映る。しかし一度仕事を始めると、ヘレンは「検品のセンスがある」と称賛の嵐に包まれる。工場の仲間たちに乗せられるままに、気をよくしたヘレンは業績をあげていく。一日の生産目標が6つとかだったキャプテンダイナミックのぬいぐるみは、ヘレンのお陰で一日1000個以上生産することが可能になった。アルバイトの稼ぎで、ヘレンは、実家と同じ広さの部屋を借りられるまでになってしまう。

ダイナミックメトロ社のメンバーは事ある毎にヘレンの仕事ぶりを褒めるが、それはどこか本心ではないようだ。キャプテンダイナミックの生産数は上がっているし、ヘレンは文字通り新しい自分の居場所を手に入れたはずなのに、どこか釈然としない。その成功体験は、どこか捏造されているように映る。

以下執筆中

美術大学という名のキャプテンダイナミック

片方だけないくつした

ホッホウホホ!

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